Text SSや考察など

常世、或いはその教誨 TITAN 3

  五月廿七日>


 街の喧騒が熱い風に乗って、BGMの様に耳に届けられた。
 いつもと変わらぬ日常。
 まるで個人の身の上の出来事など興味ないといった態で都市の時間は流れていく。
 皐月晴れの高い空に、真っ白な太陽が痛い程に眩しい。
 立ち並ぶオフィスビル。
 所狭しと並べ立てられた窓ガラスが、昼日中の強い日差しを出鱈目に反射し、街全体を陽炎で蔽っている。
 柵越しに足下を覗き込むと、地面が水底の様に風に揺らめいていた。
 そうしてトグサは、9課本部の入ったビルの屋上に佇んでいた。

 「思考戦車の入手経路が判明したぜ。」
 今朝、時刻通りにトグサを迎えに来たバトーの、開口一番だった。
 車を発進させながらバトーは続ける。
 「とは言ってもまだ仮説の域は出ないがな。恐らくあの思考戦車の正規製造工場の一つから密売組織に横流しされていたんだ。」
 トグサはいつもの様に相槌を打つ事もなく、頬杖を突き窓の外をぼんやりと眺め始めた。
 「勿論外殻だけじゃ戦車は動かねェが、どうも使われたのが正規のAIでない形跡がある。」
 昨日も降り続いた雨の為に、地面は幾つもの水溜りが出来、七色の光をちらちらと照らしている。
 「外殻だけなら、製造ラインの主任クラスでも充分横流しするチャンスはある筈さ。」
 と、バトーは動かし続けていた口を閉じる。まるで、車内に流れる違和感を改めて確認する様に。
 何も応えぬトグサ。
 「・・・オイ、トグサ。」
 「・・・。」
 「トグサ!」
 「!・・・え?あ・・・悪い・・・。」
 はっとしてバトーを振り返る。
 「ったくぅ・・・。一日家族団欒して蜘蛛の巣でも張ったか?その頭の中。」
 「一日でそんなになるかよ。ちゃんと話は聞いていたさ。」
 「どうだか。」
 「で、その工場にこれから行くのか?」
 「いや、行くのはサイトーとパズ、ボーマの3人だ。お前はまだ別の件の報告書が溜まってるだろ。」
 いつもと同じ掛け合いをする2人。しかしそれでも、車内の違和感を湛えた空気は澱み続けていた。
 声の高低。
 意識せぬ息遣い。
 刹那の無言。
 言語の端々でない空間に。

 9課に着いたトグサは、一昨日まで鬱々と書いていた報告書を早々に完成報告書のフォルダへ提出した後、今に至るまで屋上で所在無さ気に風に吹かれてい た。
 雲は、後ろから前へと流れ消えていく。
 クラクションの音がビルの谷間に木霊する。
 定期的に信号機から人工の鳥鳴が微かに聞こえる。
 先刻から、オープンになっている電通回線を通じて、様々な情報が電脳内に飛び込んできている。
 その殆どが、サイトー、パズ、ボーマからのものだった。

 思考戦車の開発・製造を一手に請け負う大手メーカー。
 あの思考戦車も、そこで作られた物と同一種である。
 黒幕は、その下請け先である戦車外殻製造工場の工場長だった。
 不良廃棄の数の水増し。
 戦車の外殻の不正入手。
 武器密売組織や非合法に戦車を所有したい者等への横流し。
 問題は、その中身であった。
 正規AIを入手出来ない立場。
 それを逆手に廃棄処分される思考戦車のAIを利用した。
 認証コードと外部ネットワークを強制削除して“中身”の無い思考戦車に強引に詰め込む。
 結果としてのカモフラージュ。
 工場長は機械工学の博士号を持っているらしい。
 半端な知識を持つ者なりの、如何にも乱暴なやり方だった。

 トグサは電通を聴くともなしに聞いていた。
 頭の中を、別の事に囚われながら。

 結局自宅にいる間中、草薙の事が思考から消える事は無かった。
 娘の髪を撫でながら。
 息子の癇癪を治めながら。
 妻と他愛も無い会話をしながら。
 心の中にふつふつと湧き上がる感情。
 罪悪感を思う隙も与えず。
 そのフラッシュバックにも似た記憶の想起に、軽く覚えた目眩を堪えながら笑みを繕った。
 後ろめたさなど微塵も感じず。
 「少佐・・・。」
 3度、口にするその響き。
 極上のワインの様な美しさと重々しさを以ってトグサの中を駆ける。
 「なあに、トグサ?」
 背後から掛けられた声。
 瞬間的に振り返るトグサ。
 「あ・・・。」
 紅の瞳。
 深く、深くトグサを誘う。
 そこには、草薙が立っていた。
 5日前の姿からは想像も出来ぬ程に、完璧な容姿で。

 一瞬安堵と歓喜を顔に浮ばせたトグサは、しかし草薙の瞳に映る色にぐ、と顔を引き締める。
 「トグサ。」
 微かに怒気を孕んだ声。
 「・・・はい。」
 「お前、私が9課に戻ってくるまで自宅には帰らないつもりでいたのか?」
 露出の過度に高いアンダーと、サイズの大きいレザータッチのジャケット。
 同素材のグローブを填めた手を腰に当て立っている。
 その、男性よりもやや小柄な身体からは想像もつかぬ程の雰囲気を纏い、トグサを威圧してくる。
 「生身のお前にはお前なりのやるべき事があるだろう?今更生身に出切る無茶と出来ない無茶を教えてもらいたいか?」
 己の靴の爪先を見詰めながらトグサは黙っていた。返す言葉すら見付けらないでいた。
 リストカット。
 そうバトーは表現した。
 傍からは闇雲に捜査に打ち込んでいるように見える自分を。
 カツカツと心地良い足音がトグサに近付く。
 顔を上げると、草薙の顔がトグサを見上げていた。
 「少・・・佐・・・。」

 ひょお、と風が吹く。
 草薙の匂いがトグサを包む。
 義体にも体臭なんて物があるのだろうか、とトグサは上の空で考えた。
 甘美で蠱惑的な狭い世界。
 たった2人、男と女を内包した。

 す、と草薙の左手が伸びる。
 トグサの右頬が包まれた。
 「しょ・・・。」
 呼びかけた女の表情が変わっていくその様を眺めるトグサ。

 少し苦しげに。
 少し自虐的に。
 微かな笑みを孕ませて。
 少し哀しげに。

 すう、と女の親指が動く。
 窪んだ眼窩をなぞり。
 張り出した頬骨を伝い。
 幾度もそれを繰り返す。
 ぞっとする程に丁寧な仕草で。

 「し・・・ょうさ・・・?」
 「すまなかったな。」
 「・・・え・・・?」
 「お前にまで、あの様を見せてしまった。」
 フラッシュバック。
 どす黒く飛び散った血が幻覚として浮かび上がる。
 青白い溶液が、眼の奥でちらついている。
 唐突にトグサは自覚した。
 目の前に存在するものは、彼女を包む殻に過ぎないのだと。
 彼女は、彼女と呼ばれているものは、彼女自身ではないのだ、という事を。
 「あ・・・。」
 「イシカワに聞いた。お前がその後根を詰めすぎていた事もな。」
 草薙の左手が、変わらずトグサの頬を撫でる。
 慈しむ様に。
 トグサが、夢の中で草薙にした様に。

 風が、止んだ。

 頬を撫で続けていた草薙の指が、つ、とトグサの唇をなぞる。
 トグサが、夢の中で草薙にした様に。
 ひく、と身体が強張る。
 既視感。
 永遠より長く。刹那より短く。
 刻は止まる。

 瞬間。
 草薙の顔を横切ったもの。
 トグサは見る。
 孤独を。

 常世なる者と、常世ならざる者と。
 生身と義体と、ただそれだけの差異。
 一如の空間に、同一の世界に存在しながら、しかしその2人の距離は果てなく遠い。
 光が追い付けぬ程に。
 膨らみ続ける時空間の、その果ての様に。

 微かに、極めて微かに、震える吐息を漏らした。
 ひくん、と草薙の左手が揺れる。
 それでも、その手を引こうとはしない。
 己に無い物を嫉む様に、手放すのを惜しむ様に、トグサの頬にひたと張り付く左手。

 トグサの背に向けて、強く風が吹いた。

 いつの間にか、先刻までの街の喧騒はすっかり形(なり)を潜めていた。

 「トグサ?」
 耳元で、草薙が呼ぶ。
 驚いた様子も、慌てた素振りも見せていない。
 『俺は。』
 電通に乗せたトグサの声。
 『あの時の少佐を見てから、俺は、ずっとこうしたかった。』
 独り言にも近い独白。
 己の腕(かいな)の中にいる女に向けての。
 縋り付く様に、草薙を抱いた腕の力を込めた。

 突然抱き付かれた草薙は、しかし冷酷なまでに冷静であった。
 ただトグサの頬に逃げられ行き場を無くした左手を、その肩に置いただけである。
 「トグサ。」
 その声は、男をあやしているかの様にも聞こえた。
 濡れていない、乾燥した吐息がトグサの耳に掛かる。
 フラッシュバックにも似た記憶の想起。
 病院へ向かうティルトローターの中。
 下半身を喪失した義体が、死体の様に床に投げ出されている。
 どす黒い血が、閉じられた瞼の裏に焼き付いていた。
 その、襤褸屑の様になった義体をあたかも本物の襤褸屑であるかの如く捨てられた草薙の、脳と脊髄だけの姿。
 『あの時、俺は凄く怖かった。』
 燠火にも似たその記憶が、ちりちりとトグサの脳殻を焦がしていく。
 『今まで自分自身だった義体を捨てなければならなくなった少佐が。』
 チタンの殻に入った皹。
 『そして、凄く苦しかった。』
 「苦しい?」
 『少佐の、唯一残っている生身の部分まで傷付けられそうだったから。』
 「知っていたのか・・・。」
 『少佐に病院まで付き添ったのは誰だと?』
 「そうだったな。」
 軽く笑みを含ませて草薙は応えた。
 「それにしても・・・。」
 言いかけた草薙は、トグサと同様、電通に切り替えた。
 『全く、それを告白する為だけにわざわざ暗号回線を使うなんて、本当にどれだけ青いのかしら?貴方は。』
 『う・・・。痛い所を突かないで下さいよ、少佐。』
 『判り易い貴方が悪いのよ。』
 『じゃあ、どうして俺を拒まなかったんです?俺のゴースト錠だって持っているのに。』
 『それを訊くのは野暮ってものじゃないかしら?』
 『・・・そういうものですか。』
 『ええ、そういうものよ。』
 いつもと変わらぬ雰囲気で交わされる会話。
 トグサの告白の重々しさを消し飛ばす様に。
 今現在の、互いの距離なぞ無視する様に。
 先刻一瞬強く吹いた風は、今は静やかにさわさわと流れている。
 トグサの長い襟足が、草薙の頬をくすぐる。
 雲は、変わらずトグサの背後へと消え去っていった。

 『少佐、戻ってきたのなら一言報告位せんか。』
 9課統一の電通回線から掛けられた声は荒巻のものだった。
 『今から行くわ。』
 「まだ課長の所に行っていなかったんですか?」
 「ええ。イシカワから貴方の事を聞いたら、居ても立っても居られなくなってね。」
 「え?」
 「冗談よ。」
 トグサは惜しむ様にそろそろと手を緩める。
 すると、肩に置かれた草薙の手がトグサの首筋へと伸びた。
 インターフェイスをつうと撫でる。
 「しょ、少佐・・・?」
 『もう少しだけ。』
 己に無いものを求める様に。
 草薙の右手が、トグサの胸に触れる。
 電子音でない、真の拍動を、永遠に続けるその胸に。
 とくん。
 とくん。
 とくん。
 とくん。
 トグサの腕(かいな)が草薙を掻き抱く。
 草薙の総てを包み込む様に。

 草薙が囁く。
 トグサの耳の中に。
 音を成す波が快楽の波となり、トグサの全身を襲った。

 永遠より長く。
 刹那より短く。
 そうして、刻は止まる。

 ありがとう、と。
 そう囁かれた瞬間に。


    *


 屋上に再び佇むトグサを背に、草薙はエレベータホールに足を踏み入れた。
 逆三角の下降ボタンを押すと、エレベータの扉を向いたまま、唐突に喋り出した。
 「・・・で、何時からそこで聞き耳を立てていたのかしら?」
 ホールの片隅、観葉植物を隣に男が壁に寄り掛かっていた。
 「別に、聞き耳を立てていたわけじゃねェよ。」
 「あらそう?じゃあ何してたの?バトー。」
 男の義眼がちらと光る。
 「お前を探してただけだよ。」
 「そう?まあ別に構わないけど。」
 12。13。14。
 扉の上の数字が順々に点灯しては消えていく。
 外の暑さからは想像もつかぬ、しん、と冷えた空気が重みを増す。
 バトーが鉛よりも重くなった口を開いた。
 「なあ、少佐。」
 「何?」
 「どうしてあの時、俺をかばったりなんかしたんだ?」

 『「バトー!走れ!』」
 銃撃による塵埃の中。
 電通肉声入り混じって叫ばれた声。
 言われて1秒後に上を振り仰ぐ。
 鉄の錆びた色が義眼に飛び込んだ。
 滑稽なまでにゆっくりと、崩れる様に倒れて来る鉄骨。
 それを確認すると、バトーは草薙の声に従い鉄骨が倒れて来ないだろう場所へ走り出そうとする。
 左足を踏み出した瞬間。
 異様に強い力で左足を引っ張られた。
 足元。
 倒した敵の一人がしがみ付いている。
 容赦なくその頭をセブロC-30で打ち抜く。
 びち、と不快な音を立てて唾液鼻水その他体液血液脳漿眼漿が飛び散る。
 再び走り出そうとする。
 「バトー!」
 間に合わない。
 何かに身体を突き飛ばされた。

 己を射抜く、烱、と光る眼。
 滑稽なまでにゆっくりと、崩れる様に倒れていく鉄骨。

 倒れた反動で起き上がる。
 もうもうと立ち込める砂煙。
 鉄骨にギロチンされた草薙の上半身。
 かっ、と見開かれた眼。
 燃え立つ紅。
 辺りに飛び散った人工血液の色が薄汚い。

 「貴方が少し抜けていたからでしょ。」
 腕を組みながら応える草薙。
 18。
 「そういう事を言ってんじゃ・・・。」
 不意にバトーが口を噤んだ。
 草薙の背中。
 いつもより小さく、儚げに見える。
 そこから溢れ流れ出したのは悲哀か。
 或いは、孤独か。
 しかしそれは一瞬の出来事だった。
 気が付けばいつもと変わらぬ草薙の背中に戻っている。
 呑んでいた息をそろそろと吐き捨てた。
 「・・・らしくねェだろ、自己犠牲なんてよ。」
 「あらそう?」
 「そうだよ。」
 男ですら頼りたくなる程に、自信と威厳に満ちた背中。
 「お前が頭から潰されるのと、私の義体が鉄骨の下敷になるのとを比較して、より確実な方を選んだまでよ。」
 20。21。22。
 「二人共に生きて帰れる方をな。」
 「だからって、あんな様を晒す真似までする事ァ・・・。」
 「そうね。流石にトグサには酷な事をしたと思っているわ。私達との差異を見せ付ける事になったんだものね。」
 びくん、と強く身体が反応した。
 トグサの横顔が脳裏にちらつく。
 闇の底で蠢動を続けるものが、バトーという殻を突き破ろうとする。
 めし、と皹が入る。
 バトーの、その僅かな異変を事も無げに感じた草薙が呼びかける。
 「バトー?」
 「・・・何だよ?」
 くす、と笑みが零れた気がした。
 「貴方って、本当に判り易いわね。」
 「?」
 「トグサに嫉妬しているでしょう?」
 「ンな訳・・・。」
 「『俺ですら見た事無かったのに』って所かしら?」
 ああ、全く。
 どうしてここまでお見通しなんだろう。
 この、女神には。

 「それとも。」
 25。26。
 「嫉妬しているのは私にかしら?」
 27。

 草薙が振り向く。
 エレベータの横の壁に背を凭せ掛け、足を交差させてバトーを見る。
 びき、と皹が拡がる。
 「・・・どういう意味だ?」
 「トグサを独占している私が羨ましい?」

 澱みも見付からぬ程、ずん、と冷たく沈んだ空気。
 街の喧騒が聞こえた気がした。

 苦しそうに、辛そうに、愛おしそうに、モニタ越しの草薙を見つめるトグサ。
 皺の刻み込まれた眉間。
 堪える様に口を強く抑えた右手。
 深く暗澹を湛えた焦茶の瞳。

 頭が崩れる様に項垂れる。
 右手がゆっくりと離れていく。
 その手に、長い前髪を絡ませ握り込む。
 右腕に隠れるトグサの横顔。
 吐き出された言葉。

 「少佐・・・。」

 甘美を打ち響かせるその囁き。

 「・・・別に独占されちゃいねェだろ、トグサは・・・。」
 草薙から眼を逸らし吐き捨てる。
 「アイツには家族がいるじゃねェか・・・。」
 「まあ、そういう事にしておきましょうか。」
 チン。
 エレベータの扉が開いた。
 乗り込む草薙。
 動かないバトー。
 「先に行くわよ。」
 バトーは応えなかった。
 滑る様に扉は閉まった。

 暗く、たおやかに、冷たく沈んだ空気。
 暗澹の如く。
 街の喧騒が、遠く静かなざわめきとして空気を波動させる。

 嫉妬。
 決して外へ向かわぬ感情。
 負の膨張を続ける。
 それを抱いた対象は。
 トグサか。草薙か。イシカワか。
 それを抱いた対象は、そんなものは、どうでも良かった。

 ばし、と皹が深く刻まれる。
 不快な音。
 外界とを遮蔽するものを突き破り、その重い鎌首を擡げるもの。
 バトーという名の外殻を、意のままに操らんとするもの。
 己であり、己自身でないものを。

 嫉妬。
 草薙の言葉が身体を縛り付ける。
 暗澹に。
 己自身に。
 常世なるものに。

 ばらばらに崩れ落ちそうになる己を掻き寄せ、バトーは逆三角のボタンを押した。


          了




暗澹より出でて闇より深く紅に染まる果実を喰む。
・・・己の力不足をはっきりと露呈させるものとなってしまいました。
もうKANさんごめんなさい・・・。

実はこの小説、前に書いた短編“常世 ANOTHER ONE”の続きとして書き始めたもの。
色々あって長い間手を付けられずにいたんですが、昨年の夏頃に続きを書く為、久々に読み返しました。

・・・そして海より深く落ち込みました。
稚拙な文章もいい所、まるっきりKANさんの書かれたプロットを文章化しているだけ、この作品のテーマも何もあった物じゃない、その他上げれば限が無い程悪辣な物だと感じてしまった訳です。
(“短編”にある“常世”のリンクを切ったのはその為です・・・。)
そこで、続きとして書いていた物を新生“常世”として書き上げました。
それがこの“常世、或いはその教誨 TITAN”です。

この“常世、その教誨”を書くにあたって、まずしたのが“常世”の意味を理解する事でした。
(本来ならば短編を書き始める時点でしておくべき事だったと反省しております。)
その上で感じた事を、自分なりのテーマとした訳です。

“常世”とは、変化が無く永久不変であること。
我々は生まれてから死ぬまで、ずっと己の命と共に存在している。
生まれる前の事、死んでからの事は、他人から聞いた事、想像にしか過ぎない事。
我々自身が直に感じている世界は、我々が生まれて生きているこの瞬間だけ。
つまり我々一人一人の永遠とは我々自身の人生そのものなのである。
そして、変化しないというのは単にその形質を変えない、という事ではない。
変化を続ける世界の中で、常にその変化にアナログに対応していく事こそが“不変”なのである。
“常世”とは、“永遠”の中でデジタルに“変化”していかないもの、生身の身体なのではないだろうか。

そんな事を汲み取って頂ければ幸いです。

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