Text SSや考察など

美しきもの HUMAN'S DREAM

 さくら さくら
 やよいのそらは
 みわたすかぎり
 かすみかくもか
 においぞいづる
 いざや いざや
 みにゆかん

 どこからともなく聞こえてくる歌。
 誰かが歌っているのだろうか。
 耳を傾けると、一面の桜吹雪が見える気がして、トグサは思わずぞっとした。
 ――旦那あたりに言ったら、笑われるんだろうな。
 桜吹雪が怖い。
 子供の時から何となく怖かった。
 舞い散る桜が儚い生命のように思えた。

 花は桜木、人は武士。

 散ると知りつつなお見事に咲き誇る。
 栄華を極めながらそれでも潔く散る。
 それを謳った詞なのだという。

 ――だけど、俺は。
 生きたい。
 浅ましくとも、醜くとも、生きたい。
 己の正義を貫く為に。
 高貴な死よりも、卑小な生を選びたい。
 死して口を噤むよりも、生きて己の持つ力で想いを遂げたい。
 桜のようでありたくはない。
 清らかでいたくはない。
 力を持てないのであれば。
 ――儚いものでなど、ありたくは、ない。
 「花は桜木、人は武士、か・・・。」
 「何だ。どうした。」
 ぽつりと呟くトグサの様子に、バトーはいぶかしむ。
 「何でもないさ。ただの独り言だよ。」
 そう言葉を返し、トグサは頭にかかった薄桃色の靄を振り払った。
 そこへ突然電通が入る。
 少佐だ。
 『エリア七四にて犯人らしき人物が目撃された。すぐに向かえ。』
 「「了解。」」
 バトーはアクセルを踏み込み、更に車のスピードを上げた。
 「ぼんやりしてると、犯人に逃げられるぞ。もっとシャキッとしろよ。」
 「わかってるよ。旦那にいちいち言われなくたって。」

 桜である事、武士である事。
 それよりも大切な物が、今の自分にはある。


          了



夢の中にたゆたうのは己か世界か。

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