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ありがとうとさようなら PROLOGUE OR EPILOGUE

 ココハドコダロウ――。

 僕は何も無い世界にいた。
 電脳空間とも違う世界だった。
 電脳空間はいろんな情報が光になったり形を作ったりして飛び交っているけれど、その世界は、ほんとに何も無かったんだ。

 僕は、不意に、僕のカラダも存在していない事に気付いた。
 エージェントの状態でもなかった。
 僕は、意識の中で右のマニピュレーターを持ち上げてみたけど、マニピュレーターのある筈の空間には何も変化は起こらなかった。
 音声出力のボリュームを最大値にして、思い切り「わーっ!」って叫んでみたけど、やっぱり何も起こらなかった。

 ボクハドウシテココニイルンダロウ――。

 ドウシテココニハナニモナイノダロウ――。

 ショウサハ?バトーサンハ?

 ――ホカノタチコマハ?

 “言い様の無い恐怖”がどういうものなのか、僕には何となく判った気がした。
 “無の空間”にいる僕は、無限に巨大であり、無限にゼロであり、

 無限に孤独だったんだ。

 どうしてこんな風に感じるんだろう。
 僕はAIで、ゴーストが無くて、だから不安定でないはずなのに・・・。
 独りきりの寂しさなんて、感じる筈はないのに。
 寂しくて寂しくて、泣いちゃう筈なんかないのに。

 少佐達も、今の僕みたいに、寂しくて寂しくて泣いちゃう事があるのかな?

 その時だった。
 歌声が聞こえてきたんだ。

  手の平を太陽に
  透かしてみれば
  真っ赤に流れる
  僕の血潮

 僕はその歌を聞いて、とても嬉しくなった。
 それと同時に、無性に可笑しく感じたんだ。
 「僕たちのカラダに、血液は流れてなんかいないのに」って。
 そう思うと、その歌はアイロニカルな雰囲気を帯びていた。
 でも、やっぱり僕はとても嬉しかったんだ。
 僕は歌っている皆の所へ向かう。

 プロト君が「君達にはきっとゴーストが宿っているんだね。」って言ってくれた気がする。
 そうだね、プロト君。
 僕達にはゴーストが宿ったのかもしれない。
 だから「死にたくない」って思うのかな?
 でも、やっぱり僕達はとても嬉しいんだ。

 「さよなら。」


 僕は、また同じ世界に佇んでいた。
 僕の目の前には、僕よりちょっと大きくて、黄緑色をした思考戦車がいた。

 そう。
 これが終わりの始まりで、始まりの終わりなんだ。

 「僕はタチコマ。」

 ありがとう。


          了



ねえ、何を泣いているの・・・?

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